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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)385号 決定

昭和六〇年(ラ)第三八四号事件抗告人 同年(ラ)第三八五号事件相手方 第一審申立人 平田忠五郎

右代理人弁護士 渡辺邦之

昭和六〇年(ラ)第三八四号事件相手方 同年(ラ)第三八五号事件抗告人 第一審相手方 猪谷信一

右代理人弁護士 能谷耕正

主文

一  第一審申立人の抗告を棄却する。

二  第一審相手方の抗告に基づき、原決定を次の括弧内のとおり変更する。

「1 第一審申立人が第一審相手方に対し本裁判確定の日から三か月以内に金二四八二万円を支払うことを条件として、原決定添付別紙目録一記載の土地賃貸借契約の目的を堅固建物所有に変更する。但し、第一審申立人は、同目録二記載の地上権による地下鉄道敷設に影響を及ぼす建物を右地上権者の同意なく建築してはならない。

2 前項の賃貸借契約の期間を右目的変更の効力の生じた日から三〇年に延長し、地代を右目的変更の効力の生じた日の属する月の翌月一日から一か月金三万八〇〇〇円に改定し、賃貸借土地上に堅固建物を建築するために必要な同土地の地盤の強化その他の土地の改良に要する費用は第一審申立人の負担とする。」

三  本件手続費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を第一審申立人の負担とし、その余を第一審相手方の負担とする。

理由

一  第一審申立人の抗告の趣旨は、「1 原決定を取消す。2 第一審申立人が第一審相手方に対し本裁判確定の日から三か月以内に五〇〇万円を支払うことを条件として、原決定添付別紙目録一記載の土地賃貸借契約の目的を堅固建物所有に変更する。但し、第一審申立人は、同目録二記載の地上権による地下鉄道敷設に影響を及ぼす建物を右地上権者の同意なく建築してはならない。3 前項の賃貸借契約の期間を目的変更の効力の生じた日から三〇年に延長し、地代を目的変更の効力の生じた日の属する月の翌月一日から一か月三万円に改定し、賃貸借土地上に堅固建物を建築するために必要な同土地の地盤の強化その他の土地の改良に要する費用は第一審申立人の負担とする。」との裁判を求めるというにあり、その理由は、別紙一記載のとおりである。

第一審相手方の本件抗告の趣旨は、「1 原決定を次のとおり変更する。2 第一審申立人が第一審相手方に対し本裁判確定の日から三か月以内に二五六九万円を支払うことを条件として、原決定添付別紙目録一記載の土地賃貸借契約の目的を堅固建物所有に変更する。但し、第一審申立人は、同目録二記載の地上権による地下鉄道敷設に影響を及ぼす建物を右地上権者の同意なく建築してはならない。3 前項の賃貸借契約の期間を目的変更の効力の生じた日から三〇年に延長し、地代を目的変更の効力の生じた日の属する月の翌月一日から一か月五万六九〇〇円に改定し、賃貸借土地上に堅固建物を建築するために必要な同土地の地盤の強化その他の土地の改良に要する費用は原審申立人の負担とする。」との裁判を求めるというにあり、その理由は、別紙二記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  第一審申立人の抗告理由(A)、第一審相手方の抗告理由一について

第一審申立人は、原決定が支払を命じた財産上の給付額一四八九万円は不当に高額であり、これを四五〇万円に減額すべきである旨主張し、第一審相手方は原決定が支払を命じた財産上の給付額は不当に低額であり、これを二五六九万円に増額すべきである旨主張する。

よって、検討するに、本件記録によれば、次の事実が認められる。

(一)  第一審申立人は、昭和三一年八月一日第一審相手方から原決定添付別紙目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)を、普通建物所有の目的をもって、期間昭和五一年七月三一日まで、賃料一か月二七〇〇円、毎月二八日限り当月分を持参支払う約で賃借し、同地上に木造瓦葺二階建居宅床面積一階四四・一九平方メートル、二階五二・二九平方メートル(現況 事務所兼居宅床面積一、二階各九〇・七五平方メートル)を建築所有し、右土地賃貸借契約は、昭和五一年八月一日法定更新され、その存続期間は昭和七一年七月三一日までとなった。

本件土地の賃料は、その後昭和五三年二月から一か月一万五〇〇〇円(一平方米当り約一三五円)に、昭和五四年四月から一か月二万一〇〇〇円(一平方メートル当り約一八九円)に増額されたが、右増額にかかる分を含め、従前の賃料は比較的低廉であった。第一審相手方は、昭和五七年三月ごろ第一審申立人に対し同年四月一日からの賃料を一か月三万円に増額する旨の意思表示をし、右意思表示はそのころ第一審申立人に到達したが、第一審申立人は、右増額請求に応じなかった。

なお、第一審申立人は第一審相手方に対し権利金、更新料等を支払っていない。

(二)  本件土地及びその付近は、商業地域、防火地域であって、建物の建ぺい率八〇パーセント、容積率五〇〇パーセントであり、現在は木造建物及び中層鉄筋造建物が混在するが、将来は中層鉄筋造建物の多いビル街に移行する公算が大きい。

(三)  本件土地の大部分を占める原決定添付別紙目録二記載の土地については同目録二記載の地上権が設定され、その地下に地下鉄が開通しているので、本件土地上に堅固建物を建築する場合には、荷重耐力を増強するため、工事費八〇〇万円ないし一〇〇〇万円を要する地盤強化等の土地改良工事を施工する必要がある。そして、右工事を施工することにより、本件土地上には通常の宅地と同様に堅固建物を建築することが許容されるところ、第一審申立人は、将来本件土地上に五階建の堅固建物を建築することを予定しているが、右建築は十分可能である。

以上の事実が認められる。

右事実によれば、本件土地賃貸借の目的を非堅固建物所有から堅固建物所有に変更し、右変更に伴い存続期間を延長するのが相当であり、これによって本件土地の高度の利用が可能となり、借地権の価値が著しく増加し、その半面本件土地所有権の底地価格は低落を免れないのであるから、第一審申立人及び第一審相手方の利害の調整のため、第一審申立人に対して一定の期間内に財産上の給付をすることを命じ、その支払を右目的変更の条件とするのが相当である。

ところで、原審における鑑定委員会の意見書によれば、前記地上権及び地下鉄が存在しない場合における本件土地の更地価格は一平方メートル当り二五七万円であり、右金額から地下鉄が存在するために要する土地改良工事費一平方メートル当り八万一〇〇〇円、地下鉄が存在することに基づく心理的不安感による減価一平方メートル当り二五万七〇〇〇円(二五七万円の一〇パーセント)を控除すれば、本件土地の更地価格は一平方メートル当り二二三万二〇〇〇円となり、本件土地の借地権価格は一平方メートル当り一六七万四〇〇〇円(右更地価格二二三万二〇〇〇円の七五パーセント)であるというのであり、記録によれば、右意見は相当であると認められる。

そして、右評価を基礎として前記諸事実、第一審相手方の取得すべかりし更新料、その他一切の事情を考慮すれば、第一審申立人の給付すべき金額は本件土地(合計一一一・二一平方メートル)の更地価格合計二億四八二二万〇七二〇円の一〇パーセントにあたる二四八二万円(一万円未満切捨)とするのが相当である。

そうすると、第一審申立人の主張は理由がなく、第一審相手方の主張は一部理由がある。

2  第一審相手方の抗告理由二について

第一審相手方は、本件土地の借地条件の変更に伴い地代を一か月五万六九〇〇円に増額すべきである旨主張し、第一審申立人は一か月三万円とするのが相当である旨主張する。

よって検討するに、前記事実によれば、本件土地の借地条件の変更に伴い本件土地の賃料をある程度増額すべきであるが、原審における鑑定委員会の意見書によれば借地条件の変更に伴って本件土地の賃料を一か月三万八〇〇〇円(一平方メートル当り約三四二円)に増額すべきであるというのであり、記録によれば右鑑定委員会の意見は相当である。

そうすると、地代改定に関する原決定の判断は相当であって、第一審相手方の主張は理由がない。

3  第一審申立人の抗告理由(B)、第一審相手方の抗告理由三について

第一審申立人は、本件土地上に堅固建物を建築するために土地改良費として九〇〇万円ないし一〇〇〇万円を必要とするとしても、その全部を第一審申立人の負担とすべきではなく、そのうち本件土地の底地割合である二五パーセントに相当する二二五万円ないし二五〇万円は土地所有者である第一審相手方の負担とすべきである旨主張し、第一審相手方は、右土地改良費は全部第一審申立人の負担とすべきであり、かつ、第一審申立人が右土地改良費を支出しても右事実はその後の地代の改定について考慮すべきでない旨主張する。

よって検討するに、前記事実によれば、第一審申立人はその申立によって本件土地賃貸借契約の目的が堅固建物所有に変更され、これに伴ってその存続期間が延長され、本件土地上に高層の堅固建物を建築することが可能となるのに反し、第一審相手方は本件土地の所有権価格の低落を免れず、また、本件土地の更地価格の算定にあたって土地改良工事費として一平方メートル当り八万一〇〇〇円を減価すべきものであるから、本件土地上に堅固建物を建築するについて必要な土地改良費は全額第一審申立人の負担とすべきであり、第一審申立人は自己の負担とされた右土地改良費について第一審相手方に対し償還請求をすることができないものというべく、なお、将来の地代の改定に際し、前記事実を地代増額に不利な事情として考慮するのは相当でない。

そうすると、第一審申立人の主張は理由がなく、第一審相手方の主張は理由がある。

4  以上の次第で、第一審申立人が第一審相手方に対し本裁判確定の日から三か月以内に二四八二万円を支払うことを条件として、原決定添付別紙目録一記載の土地賃貸借契約の目的を堅固建物所有に変更し、但し、第一審申立人は同目録二記載の地上権による地下鉄敷設に影響を及ぼす建物を右地上権者の同意なく建築してはならず、また、右賃貸借契約の期間を右目的変更の効力の生じた日から三〇年に延長し、地代額を右目的変更の効力の生じた日の属する月の翌月一日から一か月三万八〇〇〇円に改定し、賃貸借土地上に堅固建物を建築するために必要な同土地の地盤の強化その他土地の改良に要する費用は第一審申立人の負担とすべきである。

よって、原決定中右と一致する部分は相当であり、異なる部分は不当であって、第一審申立人の抗告は理由がないからこれを棄却し、第一審相手方の抗告は一部理由があるから、原決定を主文二項括弧内のとおり変更し、本件手続費用は主文三項のとおり負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 佐藤榮一 石井宏治)

〈以下省略〉

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